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Qwerty sentence
とりあえず、できる限りは頑張ってみます。

2009年 7月 29日 (水)


巡り巡りて些細な綻びに躓き、捻れた意図を解かんとす

by Q-turn


 21:19 執筆開始

 一匹の雀が死んでおりまして。

 湿度も温度も最高潮な昼間過ぎ、現場は職場すぐ近くの路上。
 そう広くない道幅にも関わらず存外交通量の多い裏道なので、おそらく車から逃げそびれて轢かれてしまったのは想像に難くなく――まぁ見るも無惨な造形に成り果てていたわけで。
 最初に気がついた時は特に感慨もなく。
 しかしその数十秒後、とあることに気がついて事態が豹変する。

 この死骸、誰が片付けるんだ? と。

 午後の仕事に追われていた我が身ではどうしようもなくあり、事実その場は仕事に戻った。
 だけど、どうにも気が気でない。
 これが東京都内の職場ではなく、隣県の自宅付近でならば問題ではなかっただろう。
 なんせ歩けば野良猫の姿が目につき、鴉の鳴き声が聞こえてくるような環境下、哀れな雀の亡骸など放って置く間もなく処理されてしまう。
 しかし千代田区秋葉原の裏道はそんな境遇ではなく、目につく雑食動物はスーツや作業着に身を包んだ人間ばかりで、みな自分と同じように業務に従していた。
 幸い猫であればいるにはいた。しかし彼奴は不特定多数の人間に構われて日々を過ごしてきたせいか、或いは単に老描であったためか、すぐ側にある獲物には目もくれず羽を伸ばしていた。
 作業所に戻ってからも気分は優れない。というより、何か人心地がしない。
 これは偽善である故だろうかと反覆した。
 おそらくそうではないだろうと、根拠もなく払拭した。

 さて、自分の業務には屋内での作業の他に屋外への配達というものがある。
 今日も当然、請け負うがままに外に出た。そしてもちろん件の死骸を見やった。
 この時は屈んで手を合わせた。他意はない。先ほど述べたように哀悼の意向があったわけでもない。ただこの亡骸を認識しているという最もわかりやすい意思表示としてそうしただけだった。
 近隣をぐるっと一回りして、再びかの場所に立ち止まる。
 歩いている間に視線があるモノを探して彷徨っている感覚を認めないわけにはいかなかった。どこにでもありそうなモノ。どこにでもあると思っていたモノ。
 結果的に目的のモノは見つかっていた。
 社屋の脇から使い置かれた箒とちり取りを持ち出す。
 かつて命であった無機質体に近づいて、頭上から声がかかる。
 どうやら何か勘違いされたらしい。自身の出で立ちを客観的に見れば、ある意味当然の事だろう。屋内から出てきた直属の老齢部長さんの外見を見てそう思い至ざるを得なかった。

 特に示し合わせたわけでもなく、部長さんは死骸を包むと社屋の横手に移動した。
 この場で任せてしまっても良かったし、それこそ偽善であるように脳裏によぎったが、せめて話のネタになればと言い聞かせてついて行く。
 予想通りの場所にたどり着いて、部長さんが身を屈める。
 土があった。
 コンクリート建築とコンクリート路面に切り取られるように、数多の石礫に侵されながらも、そこにだけ、土が露出していた。
 詰まるところ、その感覚は黄泉に旅立った小さき魂への哀悼や、加害者たる人間への憤慨ではなく。
 ただ単純に日常の中に断りもなく訪れた小さな異変への不快感によるものなのは間違いなかったのであろう。
 車に撥ねられた、自由なはずの雀。
 命の失われた肢体を処理しない捕食関係。
 それでも最後の砦として受け止められるはずの、土壌の消失。
 その結果残されるのは――無惨なままの雀の死骸。
 たった一つの綻びが、連鎖的に繋がって、確かな非日常を形成する。
 確率論という観点ならば興味深い標本と言えるかもしれない。けれど少なくとも今日の自分にとってはそれは忌憚されるべきイレギュラー以外の何者でもなかった。
 部長が片手にした金具で土を掘り起こす。
 連日の夕立にも関わらず乾いた黄土色の表層が混ぜられ、暴かれ、焦げ茶色の土が現われる。
 静かに、雀を置いた。
 その上にきっちり掘り出した分の土を振りかける。
 それで、お終い。
 二人とも手を合わせるようなことはしない。自分は先ほど合わせたし、そもそも招かれざる非日常の糸はたった今解けきった。
 ただ、視線の先にある何枚もの幸福実現党の政治ポスターを見やり、少しだけ申し訳ないことをしたかな、と苦笑を堪えた。
 戻りがけにふと空を見上げ、連日の夕立模様を思い出す。
 それほど強くない雨でも、路上の血痕を気づかない程度に洗い流すにはきっと十分だろう。
 結果的にそれ以降雨が降ることはなかったけれど。

 日常の中に戻り、自転車に乗って少し遠出の外回りを終えて戻ってくると、またまた小さな非日常が待っていた。
 いつも通り添えられたカップの隣には、「冷凍庫の中に良いものがあるよ」という書き置き。
 指定された場所に置かれていたのは、一本の溶けかけた棒アイス。
 雀が持たせる葛籠は欲深き者に罰を与え、欲無き者には幸福を与えるという。
 さするに、日常に日常を求めることは欲張りではないと言うことか。
 垂れ落ちそうになるミルクアイスを頬張りながら、せめてカップ系のアイスだったらもっと味わえたのにな、と欲張りなことを考えてみたりした。

 22:42 執筆終了











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